昔からジャス好きのMOURIだが、ここにきて拍車がかかったようで、
古いジャズのCDや、ブルーノートに関する書籍に埋もれて楽しそうに暮らしている。
熟年になるとパーソナルスペースが広くなるのか、お互いの趣味志向を尊重しながら、
気配を感じ、声をかければ届く絶妙な距離感というものが築かれるようだ。
居間の私と和室のMOURIとの距離は、約3メートル。
液晶テレビを挟んで向い合う形に座しながら、視線が絡まないところがまたよろしくて、
読書をしたり、パソコンをいじったりするのが休日の過ごし方である。
BGMは大抵ジャズ。
ジャズといえばアンニュイものだと思っていたが、昼でも似合う名曲が沢山あることを彼から教わった。
そんなジャズの中で必ず私が反応するのが、オスカー・ピーターソンなのだそうだ。
「これ、いいね」と言うものの8割方が ピーターソンなのだと、言われるまで気づかなかった。
昼過ぎに出かける前に、MOURIは新しいCDをプレイヤーにかける。
私の好きそうな曲を選んでいくのだが、たいていオスカー・ピーターソンである。
このアルバムを録音されたのは60歳を過ぎた頃だそうだが、
華麗なタッチで、めまぐるしく鍵盤を走る彼の指使いに唸る。
コロコロ、ポロポロと、何と心地よいタッチなのだろう。
アルバムの中で一番好きなのが、2曲目の“LOVE BALLADE”。
聞くたびに鳥肌が立つくらい沁みる曲だ。
主旋律がひととおり終わると、転調し、さらに見事な旋律が繰り返される。
可憐で優雅で美しいメロディーを奏でる彼のことを、いつからか私は《大将》と呼び崇めるようになった。
実は、初めてこの曲を聞いたのは、演劇のBGMだった。
デヴィッド・ルヴォー演出の、ハロルド・ピンター『背信』を観ていた時だった。
佐藤オリエさん演じるエマという女性が、ワインを片手にソファーに斜め座りになり、
男に何か語りかけるシーンだった。
彼女が彼にチャーミングな視線と言葉をなげかけたその瞬間の、絶妙なタイミングで
“LOVE BALLADE” が、ポロ~ン♪と鳴りだした。
もうもうもうもう。
なんとオシャレな演出なんだろうと鳥肌がたった。
エマの着る上品な真紅のワンピースとともに、いつもでも記憶に留められる曲である。
●tpt『背信』1993/07/10~08/05
演出:デヴィッド・ルヴォー 作:ハロルド・ピンター
出演:佐藤オリエ・木場勝己・塩野谷正幸・晴海四方
音響:高橋巌
このアルバムで好きなのが“SOMEONE TO WATCH OVWER ME”。
邦題「誰かが私を見つめてる」
野村不動産プラウドのCMでも使われてるので「ああ、聞いたことがある」という人は多いだろう。
高級マンションのイメージアップにピッタリの曲だと思う。
このアルバムは、Oscarはもちろん、JOE PASSのギターとSTEPHANE GRAPPELLIのヴァイオリンが素晴らしい。
特にステファン翁の音色にはうっとりと素晴らしい。
優しくソフトな弓の置き方なのに、どうしてあそこまで緊張感のある音なのだろう。
Oscar& JOE& STAPHANEは、品格ある者が集まったトリオだと思った。
このアルバムで、驚いたのが4曲目の“Peaple”だ。
バーブラ・ストライザンドが歌っているあの名曲が、大将(Oscar)の手にかかると、
抑制のきいたオシャレな作品に生まれ変わるから不思議だ。