Marco 知の鍵

メインBlogから本に関するものをピックアップ。ああビブリアみたいな場所で一日中本読んでいたい。

王妃の帰還

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『王妃の帰還』読了。

本屋さんのダイアナ』で柚木麻子さんを知り、二冊目にこの本を読みました。

 

主人公-前原範子はカトリック系の聖鏡女学園に通う中学2年生。

物語は、2年B組での「公開裁判」から始まる。

クラスのトップ集団に君臨する滝沢美姫が、安藤晶子の時計を盗んだと訴えられたのだ。

美姫は罪を認め、姫グループから追放され、転落。

 

そんな美姫を、範子たち4人はグループに迎え入れるハメになる。

範子のグループは、クラスでも最下層に位置づけられる、オタクの集まりだった。

範子は、美姫のことを密かに<王妃>と呼び憧れていた。

しかし、価値観が違う王妃-美姫は、つねに高飛車な態度で範子たちを傷つける。

困った彼女らは、あることを思いつく。

美姫を人気者にして、元の姫グループへご帰還いただこうと計画だった。

 

聖鏡女学園は小中高一貫のお嬢様学校

等々力駅から渓谷沿い歩くこと20分の距離にある学校は、周辺を見おろす高台にあり、

広い敷地は竹林にぐるりと囲まれているため、いかにも少女が大切に育まれる、神聖なイメージ作りに成功している。

敷地内の小中高ばかりではない。広尾の大学もお嬢様校として有名だ。

本文 13ページより

 

学校のモデルは、聖ドミニコ学園とか星美学園といったところかしら。

双葉の可能性も十分にある。

私立ゆえ、親もそこそこの経済力を有しているという設定で、日常の買い物は用賀、

ショッピングは自由が丘で、外食は246のシズラーだという。

馴染のある地名がポンポンと出てきて、妙に親近感がわいた。

 

 

28人のクラスメートはみな、どこかのグループに入っている。

姫グループは、クラス最高位のトップ集団、美姫が抜けた後はNo2の村上恵理菜が仕切っている。

安藤晶子がいたギャルズ組は、クラスの中でも一番の大所帯、内田さんがボス。

ビジュアル系バンドやゴスロリが大好きなゴス軍団は、黒崎沙織が代表。

伊集院詩子さんが率いるチームマリアは、優等生揃いで先生受けがよく、何かと優遇されている。

そして、クラスの最下層にいるのが範子が属するオタクグループ。

 

オタクグループのメンバーは、範子を入れて4人

 スーさんこと鈴木玲子ちゃんは大柄で色白、たっぷりとお肉のついたお餅みたいな体をしている。落ち着いた雰囲気と相俟って、同じ14歳にはとても見えない。ふくよかな白い手がお母さんみたいで、彼女がいるだけで場が和む。のんびりしているように見えて、学年トップクラスの成績、お父さんは聖鏡女学園大学の理事にして名物教授なのだ。それをひけらかくこともなく控えめにしているので、誰からも嫌われておらず、星崎先生からも一目おかれている。

 

 リンダさんこと、リンダ・ハルストレムは、顔いっぱいのソバカス、翠色のギョロ目に獅子鼻。みっちり絡まったくせっ毛は燃えるように赤い。建築家夫婦として有名な、スウェーデン人のお父さんと日本人のお母さんを持つ彼女だが、日本語しか話せないし、生活習慣も範子達となんら変わらない。「失言王」として、一学期のクラスでちょっとだけ疎まれかけたのは、文化の違いではなく、持って生まれた性格そのもののせいだろう。

 

 チヨジこと遠藤千代子は、母を亡くして父と二人で住んでいる。その場の空気を正しく読み、上手に立ち回るけれど、決して卑屈にならないのだ。範子にとってチヨジは頼れる姉のような存在で、範子とチヨジはお互いの親を再婚させるべく作戦を実施している。

 

 範子たち四人が自然と親しくなったのは、家庭環境が回りと違うからなのかも知れない。リンダさんの両親は建築事務所を共同経営しているし、教授夫人のスーさんのお母さんは有名な教育評論家でもある。範子の母は学園の生徒の保護者には珍しい離婚経験者にして、大手出版社でファッション誌の編集長を務めている。チヨジのお父さんは奥さんを亡くした後、新聞社に勤めながら男手一つで娘を育てている。

2年B組はとりわけ裕福で華やかな子が多いせいもあり、クラスの全5グループのうち4人は最も目立たないポジションだ。しかし範子はこのグループの持つ家庭的雰囲気を愛している。

本文 10ページより

 

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学校にカースト制度があるの?

「登場する地名に馴染があり親近感がわいた」と言うのは、

母校も似たような場所にあるカトリックの学校だったからです。

しかし私の頃と違うのは、クラスにカースト制度とガタゴチのグループがあるということ。

 

エスカレーター式の小中高一貫校は、基本12年間 顔ぶれが変わりません。

そんな環境で、一度 仲間外れにされたら地獄でしょう。

『ハブられる』『ぼっち』は、彼女たちにとって身も凍るような話。

本書にも、こんな描写がありました⤵

聖鏡女学園は、私立には珍しく中高、給食を出している。これは友達のいない子にとっては過酷なシステムだ。お弁当であれば一人屋上で食べることも可能かもしれないが、給食のトレーを持って教室を出ることは許されないのだ。誰にも相手にされていないということが、クラスメイトだけではなく先生にまでばれてしまう。

 

確かになぁ。

一度 のけ者にされたら、12年も 面子が変わらないんだもの、さぞつらかろう。

本の中でもかなり辛辣な場面がありました。

「お前ももう学校来んな!」と誰かが叫ぶ、と、

「来ーるーな! 来ーるーな!」とクラスの皆のコールが始まる。

子どもって、こういう残酷なところあります。

特に集団心理は凄い。しかも女子は男子より辛辣です。

担任の星崎先生が「可愛い顔をした悪魔だ」というのもうなづける。

 

実際に私が通った学校も一貫校でしたが、この学校より平和でのんびりしてました。

時代が良かったのでしょう、虐めというものもありませんでした。

仲良しグループはあったけど、ガチガチではなく他のグループとの行き来は自由。

友達付き合いに疲れた時は、ひとり離れて本を読んだり、窓から外を見てボーッと瞑想したり、そんなことも許された。

足並み揃えなくても「付き合いが悪い」という理由で、仲間外れにされる心配もなかった。

今は『仲間外れ』なんて生易しいものではない、『はぶる』っていうんですか?

そんな言葉さえなかったもの昔は。

 

今の子は大変だわ

今の子は気の毒です。

ガチガチのカースト制度があって、悪目立ちしないようにしないといけなくて、

必死でどこかのグループに入らなければならない。

姫チームの村上恵理菜が、美姫を追放する時に、

他のチームへ働きかけ引き取り先を探してやったりするのは、武士の情けなのかも知れません。

 

現在の学校生活がこんなに過酷なのかと驚愕しますが、 

著者 柚木麻子さんは「中学生くらいの年代に向けて書いた」とおっしゃっているからには、

これがマジの世界なんでしょう。

 

 

キャラだてが見事でわかりやすい

本の冒頭に、いきなり大勢の女子の名前が出てきます。

登場人物が多いと、誰が誰やら混乱して筋を追えなかったりしがちですが、本書は違います。

それぞれのキャラクターがしっかり粒立たせているので、とても読みやすい。

 

若い読者は、スーさんや、範子、チヨジや、美姫に自己投影して読むのでしょうが、

流石に私は、子どもではなく親の世代に目がいきます。 (^^♪

贔屓はやはり範子の母親。

彼女カッコいいんだもの。本の中でも多くの女子生徒に影響を与えるハンサムウーマンです。

 

柚木さんはインタビューでこのようにおっしゃっています。

「少女向けだけど大人が読んでも面白い小説にするべく、さじ加減はすごく考えました。」

確かに。オバサンの私が読んでも十分に楽しめました。←大人のオジサンはどうかわからないケド。

登場人物に大人は少ないけれど、範子の母はとても魅力的に描かれています。

物語の後半、娘を想って自分の恋愛を中断する場面がありました。

ネタバレになるのでセリフだけにしますが、こんなに俯瞰で見られる女性はいないでしょう。

「今回のこと、すごく気の毒だったと思う。ひどい災難よ。あなたが嫌いになったわけじゃない。問題は私。事件を聞いた時、真っ先に私は何を思ったと思う?」

母は大きく深呼吸すると一息にこう言った。

「あなたがロリコンで、娘に手を出すために私に近づいたんじゃないか、と疑ったのよ」

「ずっと二人の関係に自信がなかった。おかしいと思っていたの。四十代の私に、あなたみたいな若い人がって ⵈⵈ 。本当の恋人なら誰よりも信じて支えてあげなきゃいけない時に私はそんな風に思っていたの。ひどい人間よね。だから問題はあなたにあるんじゃない。私にあるの。申し訳けないけど、今日は帰って」

 

恋愛をして、でも愛する娘のことを考え、もう一度冷静になり踏みとどまってみる。

昨今、同棲相手の男性と一緒に子どもを虐待してしまう母親の事件があとを絶ちません。

そういう母親に、範子の母親のような物事を俯瞰で見られる目を持って欲しい。

一度 冷静になれば、かけがえのない愛するものが、目の前にいることにも気づくでしょうから。

 

 

柚木さんの本は、これで二冊目ですが、子どもたちの描き方が非常にうまい作家さんだと思いました。

でも、子どもだけじゃないな。『本屋さんのダイアナ』のティアラや、範子の母のような魅力的な大人の女性にも出会える素敵な本を書く方だと思いました。