いかにも芥川龍之介が好きそうな題材。この作品の元となったのは「龍樹菩薩伝」で、龍樹は、大乗仏教中観派の祖で八宗の祖師と称される人。真言宗では、真言八祖の1人であり、浄土真宗の七高僧の第一祖とされているそうです。その龍樹の俗伝の中に、以下のエピソードがあります。
芥川龍之介は、この俗伝をモチーフにして「青年と死と」を書いたようです。
本作では、隠身の術を、“ 着ると姿が見えなくなるマントル ” に置き換え。
宮廷に潜り込む男も2人にしています。
また伝記では、男たちは衛士によって切り殺されますが、芥川は死神とのやり取りに変えています。
さて、物語に登場する男の内、
Aの男は死神に対して、
「お前を待っていた、今こそお前の顔が見られるだろう。さあ己の命をとってくれ」と言います。
Bの男は、
「己はお前なぞ待っていない。己は生きたいのだ。どうか己にもう少し生を味合わせてくれ。己はまだ若い。」と懇願します。
死神は、Bに言います。
といい、Bの命を取っていきます。Aは「死にたい、己の霊魂をとってくれ」と言いますが、その時、第三の声が…。
第三の声が言う。「(静に)夜明けだ。己と一緒に大きな世界に来るがいい」黎明の光の中に黒い覆面をした男とAが出ていくのが見える。
Aは、“ 死 ” の意味を理解し、死を直視していた為に救われ、Bは、快楽を求め、今日まで死を忘れて過ごして居た為、命を取られたという意味のようです。しかし、よく考えると、命を取られなかったAは、“ 救われた ” のではなく、辛い世をこれから先 “ 生かされ ” ることになった訳ですよね。
芥川龍之介が、生と死を突き詰め始めていったのが、この時期からと言えるのではないでしょうか。